こんにちは。千葉県柏市のグリー行政書士事務所、酒井です。
「系統用蓄電池(グリッド接続の大規模蓄電池)を設置したいけれど、開発許可は要るの?」というご相談がこのところ本当に増えました。
結論から言うと、ケースによっては開発許可が必要です。しかも、太陽光発電と同じ感覚で進めると、思わぬところにルールの“段差”があります。この記事では、なるべく専門用語を減らしつつ、なぜ開発許可が必要になるのか/ならないのか、系統用蓄電池ならではの勘所を、行政書士の目線でわかりやすくご説明します。
まず「開発許可」とは?超ざっくり解説
開発許可は、土地の造成や大きな施設づくり(建物・特定工作物)をする前に「ここでこういう開発をします」と、国や県・市のルールに沿ってチェックを受ける制度です。
法律上は、建築物や特定工作物(プラント・危険物貯蔵施設・大規模工作物など)をつくる目的で行う土地の区画形質の変更を「開発行為」と呼び、許可の対象にしています。国土交通省
ポイント
- 市街化調整区域(原則として市街化を抑えるエリア)では、とくに立地できる施設の種類が厳しく限定されます。国土交通省
ここが最新ポイント!「系統用蓄電池」の開発許可で何が変わった?
2025年4月、国土交通省から系統用蓄電池の開発許可制度上の取扱いが技術的助言として示されました。内容をかみ砕くと――
- 電気事業法上の“電気工作物”に該当しない系統用蓄電池で、
- 危険物(建築基準法施行令の表にある危険物)を含有するものは、
- 都市計画法上、「第一種特定工作物(危険物の貯蔵に供する工作物)」に該当し得る=開発許可の対象になり得る、という整理です。国土交通省
さらに、市街化調整区域で第一種特定工作物としての系統用蓄電池を設置する際は、都市計画法34条14号・施行令36条1項3号ホの運用(=調整区域で許せる用途の枠)に沿い、地域の実情に応じた審査基準の整備などで運用することが望ましい、とのこと。国土交通省
つまり
系統用蓄電池=必ず開発許可ではありません。
ただし**「電気工作物に当たらない」かつ「危険物を含む」構成だと、第一種特定工作物として開発許可が要る可能性**が高まる、という最新ルールです。国土交通省
「コンテナ型BESSは建物?」建築基準法の取扱いも要チェック
コンテナ収納型の蓄電池は、条件を満たす場合、建築物に該当しない(=貯蔵槽等と同様の扱い)という国の技術的助言があります。ただし、コンテナを複数積み重ねると建築物扱いになります。設計初期から意識しておくと、後戻りが減らせます。国土交通省
どの区域で、どんな時に「開発許可」が要る?
- 市街化区域:面積など規模要件で要否が決まる(自治体別のローカル基準あり)
- 市街化調整区域:立地できる用途が限定。該当すれば許可要が原則(34条の各号に合致が必要)
- 準都市計画区域・未線引き都市計画区域:こちらも規模要件等で判断
詳細は国交省の「開発許可制度の概要」ページが分かりやすいです(規模要件の図表あり)。国土交通省
例:自治体の個別運用
桶川市や神戸市など各自治体が系統用蓄電池の取扱いフローを公表し始めています。設置の構成(電気事業法該当性/危険物該当性)や建築物該当性で、都市計画法上の判断が分かれることが示されています。計画地の自治体資料の確認が近道です。桶川市公式サイト
「開発許可」だけでは終わらない:合わせて確認すべき周辺法令
系統用蓄電池は土・斜面・景観・農地・森林・文化財など、土地の要件に強く影響されます。ここを見落とすと、スケジュールが大幅に遅れます。
- 盛土規制法(2023年施行)
土地の用途を問わず、危険な盛土等を包括的に規制。規制区域内の盛土は許可制・検査・定期報告の対象。造成計画とセットで審査想定を。国土交通省 - 森林法(林地開発許可)
保安林以外の森林で1ha超の開発行為は都道府県知事の許可が必要。災害防止・水害防止・水の確保・環境保全の4要件が軸。林野庁 - 農地法(農地転用/農振除外)
農地を非農地にするには4条・5条許可や農振除外が必要。権限や手続の指定市町村制度、最近は電子申請の整備も。初期から農業委員会と相談を。農林水産省+1 - 景観法・景観条例
景観計画区域では事前協議→行為届が必要。例:千葉県野田市は着工60日前に事前協議、30日前に行為届が運用開始。シビアなスケジュール管理が必要です。市報野田 - 文化財保護法(埋蔵文化財)
包蔵地での工事は着工60日前の届出などが必要。想定外の発見時は工事停止・届出のルールも。早期に教育委員会へ照会を。文化庁 - 電気事業法・安全対策(技術基準の明確化の流れ)
蓄電池火災事案を背景に、蓄電池の技術基準解釈の明確化が議論・整理中。発熱・熱暴走・可燃性ガス検知等の措置が推奨される方向性。所管との事前協議が安全。JPEA
この章のまとめ
造成・地盤・水・景観・歴史・安全――どれも系統用蓄電池の計画に直結します。
「開発許可の可否」=土台、 その周りに盛土・森林・農地・景観・文化財・電気安全が重なります。
実務フロー(初回相談~着工まで)
1. 企画・用地選定
- 区域(市街化調整/市街化/準都市)を確認、将来の拡張も想定
- 電気事業法上の該当性と危険物該当性の初期判断(=第一種特定工作物の可能性)国土交通省
2. 事前相談(“役所まわり”を早めに)
3. 設計・図書作成
4. 申請・協議
- 開発許可(第一種特定工作物に該当する場合 等)国土交通省
- 農地転用/林地開発/景観事前協議・行為届/埋文届出 など個別法令
5. 着工・検査
- 盛土規制法の中間検査・完了検査、必要な定期報告等の対応国土交通省
よくあるご質問(系統用蓄電池 × 開発許可)
Q1. コンテナ型BESSなら建物扱いにならないの?
A. 条件を満たす単体設置は建築物に該当しない取扱い。一方で複数積み重ねは建築物扱いになります。計画初期から積載構成を詰め、建築・都市計画の両窓口で事前確認を。国土交通省
Q2. 調整区域の畑に入れたい。開発許可を取ればOK?
A. 農地法の許可(4条・5条)や農振除外が別途必要になることが多いです。開発許可だけで前に進めないケースも。農業委員会への早期相談が安全。農林水産省
Q3. 森を切って造成したい。林地開発許可はどのくらいから必要?
A. 保安林以外の森林で1ha超は都道府県知事の許可制です。災害・水害・水資源・環境の4要件が柱。造成案の段階から条件を満たす設計に。林野庁
Q4. 景観の手続きはいつまでに?
A. 自治体ごとに異なります。例として野田市は着工60日前に事前協議、30日前に行為届が必要。工程表の“最初”に入れるのがおすすめです。市報野田
Q5. 最近の“安全基準”は何か変わった?
A. 蓄電池火災の教訓から、電気事業法の技術基準解釈の明確化が進んでいます(発熱・熱暴走・可燃性ガス検知など)。所管や消防との事前協議を強く推奨します。JPEA
ひと目で分かる:チェック表(保存版)
観点 | まず確認すること | どこに相談/根拠 |
---|---|---|
都市計画法(開発許可) | 系統用蓄電池が第一種特定工作物に当たるか(電気工作物に該当しない+危険物含有か) | 国交省 技術的助言(R7.4.8 国都計7号)、制度概要ページ 国土交通省 |
区域区分 | 市街化調整区域か?調整区域の立地基準(34条)に合致する計画か | 国交省 概要ページ(立地基準の考え方) 国土交通省 |
建築の扱い | コンテナは建築物該当?(単体は非該当、積み重ねは該当) | 国住指第4846号(2013/3/29) 国土交通省 |
盛土・造成 | 規制区域内の盛土は許可や検査・定期報告が必要 | 盛土規制法(国交省サイト) 国土交通省 |
森林 | 森林で1ha超の開発は林地開発許可 | 林野庁(林地開発許可制度) 林野庁 |
農地 | 農地転用(4条・5条)・農振除外の要否 | 農水省(転用制度・電子申請) 農林水産省+1 |
景観 | 事前協議・行為届の期限(例:野田市は60日前/30日前) | 野田市景観計画パンフ 市報野田 |
埋蔵文化財 | 包蔵地なら着工60日前届出など | 文化庁・自治体案内 文化庁 |
安全基準 | 蓄電池の技術基準明確化の最新動向 | JPEAの注意喚起(経産省WG) JPEA |
行政書士ができること(当事務所の伴走サポート)
- 開発許可の該非診断(系統用蓄電池の構成・危険物該当性・電気工作物該当性の整理)
- 事前相談の段取り(開発・景観・農地・森林・埋文・消防・建築の窓口を“最短ルート”で)
- 申請図書・申請書の作成と提出(盛土・排水・防災計画の要件整理を含む)
- 工程表(ガントチャート)作成と審査ポイントの潰し込み
- 変更・増設時の再判定(同一接続点の扱い・建築物該当への転ぶリスク回避 など)
はじめての方でも大丈夫です。
「この土地、系統用蓄電池は置けそう?」という初期の壁打ちからお気軽にどうぞ。