こんにちは。千葉県柏市のグリー行政書士事務所、代表の酒井です。
再生可能エネルギーの普及が進む中で注目されているのが「系統用蓄電池事業」です。
太陽光発電のように電気を作るだけでなく、ためて売るという新しい発電ビジネスモデルが広がっています。
ただし、事業を始めるにあたっては「収益性」だけでなく、「発電事業者としての法的な位置づけや届出の義務」にも目を向ける必要があります。
ここでは、系統用蓄電池事業のビジネスモデルと、発電事業者になるまでの流れを行政書士の視点から解説していきます。
系統用蓄電池事業とは?
「系統用蓄電池」とは、家庭用の蓄電池とは違い、電力会社の送電網(系統)につながって、電気をためたり放電したりできる大型の蓄電設備を指します。
特徴は、
- 電気を単に消費するためではなく「市場に供給する」ことを目的とする
- 発電事業と同じように国のルールに従って運営する必要がある
- 太陽光発電や風力発電と組み合わせて利用されるケースが多い
という点です。
系統用蓄電池事業の主なビジネスモデル
① アービトラージ型(価格差活用モデル)
- 電気が安い時間に系統から仕入れて蓄電
- 電気が高い時間に放電して売電
👉 価格差を利用して収益を得るシンプルなモデルです。
② 再エネ併設型(太陽光・風力+蓄電池モデル)
- 太陽光発電で余った電気を系統用蓄電池にためる
- 夜間や需要が高い時間帯に売電する
👉 FIT終了後の新しい収益源として特に注目されています。
③ 調整力提供型(系統安定化モデル)
- 電力会社と契約し、需給バランスが崩れたときに放電
- 電力系統の安定化に貢献しながら収益を得る
👉 長期契約による安定収入を期待できるモデルです。
行政書士目線で見る「発電事業者」としての扱い
ここが他業種ブログと大きく違うポイントです。
コンサル記事では「儲かる仕組み」が語られることが多いですが、実際には 法務面での整理が欠かせません。
発電事業届出が必要になるケース
- 系統用蓄電池の出力が 1,000kW以上
- 蓄電・放電のうち、一定割合以上を電力会社に供給する場合
- 出力10万kW以下 → 50%以上売電で届出必要
- 出力10万kW超 → 10%以上売電で届出必要
👉 つまり、系統用蓄電池も法律上は「発電設備」と同じ扱いを受けることがあるのです。
発電事業者になるまでの流れ
- 事業計画の検討
- どのビジネスモデルで運営するか(アービトラージ型・再エネ併設型など)
- 出力規模や売電割合を確認
- 届出の要否確認
- 発電事業届出が必要かどうかをチェック
- 系統用蓄電池の場合も例外ではありません
- 発電事業届出の提出
- 必要書類を揃えて国に届出
- 行政書士が代理で作成・提出可能
- OCCTO(広域機関)への加入
- 電力広域的運営推進機関に必ず加入し、会費支払い・会議参加などを行います
- 事業開始後の義務
- 供給計画の提出
- 半期ごとの発電・放電実績報告
- 災害時の協力体制への参加
よくある質問(FAQ):系統用蓄電池事業のビジネスモデルと発電事業者になるまで
Q1. 蓄電池だけでも「発電事業者」になるの?
A. なり得ます。 2023年4月の制度改正で、系統用蓄電池(グリッド接続の大規模蓄電池)からの放電は「発電に準じる事業」として整理され、送配電設備への接続・利用が制度上明確化されました(接続は合理的理由なく拒めない建付け)。そのため、ビジネスモデルや規模次第で発電事業の届出義務や以後の各種義務が発生します。
Q2. 発電事業の届出が必要かどうかの判断基準を、できるだけ簡単に教えて?
A. 行政書士としての実務では、以下4点を総合チェックします(どれも重要)。
- 出力:合計1,000kW以上(同一接続点の合算に注意)
- 出力に占める供給割合:小売・(一般/特定)送配電事業の用に供する割合が50%超(10万kW超の大規模なら10%超)
- 電力量に占める供給割合(年間):同じく50%超(10万kW超なら10%超)
- 接続最大電力(小売等向け)の合計:10,000kW(10MW)超が見込まれること
上の「4つ」を満たすと発電事業に該当し、届出が必要です。太陽光と同様、系統用蓄電池事業でも同じ考え方で判定します。
Q3. 「出力」はどう数える? 太陽光や系統用蓄電池では違う?
A. 原則は認可出力(工事計画認可前は最大出力)。太陽光はパネルとPCSの小さい方で見ます。複数設備が同一接続点にぶら下がる場合は合算で1,000kW以上かを見られます。休止中は届出書に**出力0(括弧で認可出力)**の扱いです。
Q4. 「接続最大電力」って何の数字?どこから拾うの?
A. 一般送配電事業者との契約書様式(同時最大受電電力)を基礎に、自己託送分を除いて小売等向け接続最大電力を算出するのが基本です。契約前なら負荷設備(予定含む)からの推計で、説明可能な数値を記載します。
Q5. 届出後、発電事業者にはどんな義務があるの?
A. 要点だけ
- 安定供給義務(需給逼迫・離島等への供給体制)
- OCCTO(広域機関)への加入とその会員義務(会費、指示遵守、災害対応など)
- 供給計画の届出(遅滞なく→以後は毎年度)
- 各種報告(発受電月報、電気保安年報、半期運転報、設備資金報 等)
- 財務諸表の整備・提出
行政書士の伴走があると、初年度から運用が安定します。
Q6. OCCTOって何をするところ?系統用蓄電池事業との関係は?
A. 電力広域的運営推進機関(OCCTO)は、全国レベルで需給・系統の広域運用を担う機関。発電事業者は加入が前提で、系統アクセスのルール更新や発電側課金(2024年4月導入)など実務に直結する変更が随時あります。系統用蓄電池事業も同じ土俵で運用・報告が求められます。
Q7. 系統用蓄電池事業のビジネスモデル別に、法務上の着眼点は?
A. 代表的な3類型で整理します(発電事業の届出はQ2参照)。
- アービトラージ型(価格差活用)
安い時間に充電→高い時間に放電・売電。系統接続・需給計画・OCCTO絡みの報告体制を前提設計に。 - 再エネ併設型(太陽光×蓄電池)
余剰の平準化で収益最大化。同一接続点の合算出力や供給割合で届出要否が動くため、計画段階での容量設計が肝。 - 調整力提供型(系統安定化)
契約相手(一般送配電・配電・アグリゲータ等)とKPI・応動要件を明確に。報告・計画の年次運用を見越した体制づくりを。
(市場・制度は変化が早いので、直近のOCCTO告知や省庁資料に沿って設計するのが安全です。)
Q8. FIT/FIP後の太陽光と系統用蓄電池の組み合わせは実務的にアリ?
A. アリです。昼の余剰を蓄電→夕方ピークで放出する価格差取りや、出力制御対策としてのバッファ機能が評価されています。市場面でもBESS(蓄電池発電所)案件が活況ですが、接続遅延・系統制約がボトルネックとの指摘もあります(計画余裕を)。
Q9. 届出に失敗するとどうなる?
A. 要件を満たすのに届出なく事業を開始すると電気事業法違反です。後追い是正でも、OCCTO加入や供給計画・報告等を一気に整備する必要があり、実務負担と信用低下のリスクが大きい。事前診断をおすすめします。
Q10. どのタイミングで行政書士に相談すればいい?
A. ベストは企画段階。
- 接続点の設計(合算1,000kW超の判定影響)
- 供給割合(出力/電力量)の見込み
- 接続最大電力(小売等向け)10MW超の見込み
- OCCTO加入・供給計画・各種報告の初年度カレンダー
この4点をビジネスモデルと同時並行で詰めておくと、後戻りを減らせます。
Q11. 収益試算でよく抜け落ちるコストは?
A. よくあるのは、
- 申請・届出・OCCTO会員諸費用(初期+年次)
- メータリング・遠隔監視(データ要件対応)
- 系統接続工事・系統利用料金(発電側課金含む)
- 年次報告の体制維持コスト(法定報告+財務書類)
- 調整力契約の不稼働ペナルティ(モデル次第)
制度変更の影響も受けるため、年次の見直しを前提に。
Q12. 「小売電気事業」の登録が必要なケースは?
A. 需要家へ直接販売するスキームなら、小売電気事業(登録制)に触れる可能性があります。PPAや自己託送など契約設計で要件が変わるため、事案ごとに整理が必要です(発電事業届出とは別レイヤー)。※この部分は個別相談で詳細設計を。
Q13. 太陽光×系統用蓄電池の設計の落とし穴は?
A. 典型は「PCSや蓄電池出力を足し込むと同一接続点で1,000kW超になっていた」「供給割合が年間で50%超に振れてしまった」など。初期の容量配分と運用のKPI(昼夜シフト量、年度エネルギー配分)を見える化すると安全です。
Q14. 年度途中で設備を増設したら届出や計画はどうなる?
A. 合算の考え方(同一接続点)で1,000kW超えに転ぶケースがあります。増設前に届出・供給計画の見直しを。年間比率も年度基準で評価されるため、計画修正が必要になることがあります。
Q15. 実務の年次スケジュールはどんな感じ?
A. 初年度は「届出 → OCCTO加入 → 供給計画提出 → 事業開始」。以後は毎年度の供給計画と、月次・半期・年次の報告、財務書類提出が基本ルーティン。記事末のチェックリストも参考にしてください。
すぐ使えるチェックリスト(保存版)
収益試算に会員費・報告運用・接続コストを含めたか?(見落とし注意)
- 事業類型:アービトラージ/再エネ併設/調整力提供(複合も可)
- 接続点と合算出力:1,000kW以上の判定は?(休止中の扱い含む)
- 供給割合(出力・年間電力量):50%超(10万kW超は10%超)見込み?
- 小売等向け接続最大電力合計:10MW超にならないか?
- OCCTO加入・供給計画・各種報告の準備はOK?
- 発電側課金や系統制約など直近のルール更新を反映したか?
- 収益試算に会員費・報告運用・接続コストを含めたか?(見落とし注意)
行政書士に相談するメリット
系統用蓄電池事業は、技術や収益性の検討も大切ですが、法務を軽視すると大きなリスクを抱えることになります。
- 「自分の事業は届出が必要か?」の判断
- 届出書・報告書の作成サポート
- 系統用蓄電池+太陽光など複合モデルの法的整理
これらは行政書士ならではの専門分野です。
事業計画段階から相談いただければ、安心して投資・運営できる基盤づくりをお手伝いできます。
まとめ
- 系統用蓄電池事業は、電気をためて売る新しいビジネスモデル
- 発電と同様に 届出や報告義務が発生する場合がある
- 行政書士に相談することで、法務リスクを回避しつつ事業を進められる
「収益シミュレーション」だけで判断せず、法務面からの安全確認を行うことが成功の第一歩です。
グリー行政書士事務所では、系統用蓄電池事業の届出や事業計画の法的整理をサポートしています。
お気軽にご相談ください。