まず全体像
- 系統用蓄電池は、調整区域では**原則「開発許可が必要」**になりやすい設備です。
- ただし、電気事業法の“発電・送配電側”の用途に当たるなら**「適用除外」で開発許可が不要**になる場合があります。
- 分岐のカギは ①用途(電気事業のどの区分?)②危険物の扱い ③造成規模。
国交省からも取り扱いの考え方が技術的助言として出ています。 国土交通省
条文のかんたん説明+具体例
1) 都市計画法 第4条第11項(特定工作物の定義)
なにを言ってる?
この法律でいう「特定工作物」は2タイプ。
- 第一種:周辺の環境を悪化させるおそれ(公害系)
- 第二種:ゴルフ場など大規模な工作物
…という“要注意な工作物”を特別扱いします。 日本法令外国語訳データベース
系統用蓄電池だと?
蓄電池が危険物を含むタイプ等は、第一種特定工作物に当たり得るという整理が国交省の助言でも示されました。 国土交通省
具体例
- リチウムイオン系の系統用蓄電池で、危険物量が規制を超える→第一種特定工作物として扱われ得る。
- 逆に、危険物規制の対象外(または数量が小さい等)なら、この条項に基づく第一種該当は回避できる可能性がある(※ただし他の基準は別途要確認)。
2) 都市計画法 第29条第1項(開発許可の原則)+「ただし書」(政令で除外)
なにを言ってる?
原則:都市計画区域内で“主に建築物や特定工作物のための造成”等をするなら開発許可が必要。
ただし:「政令で定める開発行為」は許可不要(適用除外)にできます。
(=この「政令」が施行令第4条です) 日本法令外国語訳データベース+1
系統用蓄電池だと?
「誰の、どの“電気事業”のためか」で、施行令4条の適用除外になるかが分かれます。後述の電気事業法の区分とセットで判断します。
(自治体の手引でも“許可が不要となる開発行為”が整理されています) 横浜市公式サイト
具体例
- 造成してBESS(蓄電池設備)を並べる→原則は29条の世界=許可が必要。
- ただし施行令4条の「適用除外」に該当するなら→許可不要の可能性。
3) 都市計画法施行令 第4条(許可を要しない開発行為=適用除外)
なにを言ってる?
第29条ただし書で「政令で定める開発行為は許可不要」とされたその中身のリスト。
この中に電気事業法に基づく“発電事業者”の用に供する工作物に関する規定が置かれています(条文構造としてここが“適用除外”の根拠)。自治体や解説資料でも「除外規定」「適用除外」として周知されています。 福島市+1
系統用蓄電池だと?
発電・送配電側の用途なら、このリストにより許可不要(適用除外)になり得ます。これを裏付ける最新の国交省の技術的助言も出ています。 国土交通省
具体例
- 一般送配電・送電・配電・特定送配電・発電事業の系統用蓄電池(系統安定化・調整力用途など)
→ 適用除外の可能性(※他法令の手続は別)。 法令リード - 小売電気事業・特定卸供給事業向け(売電スキームの態様による)
→ 適用除外の外になり得る(下記4)も参照)。 法令リード
4) 電気事業法 第2条(用語の定義:小売・発電・送配電 等)
なにを言ってる?
- 小売電気事業(2条1項2号)=需要家に売ることが主たる事業
- 発電事業、一般送配電事業、送電事業、配電事業、特定送配電事業など、**“発電・送配電側”**の区分が別で定義
- 電気工作物など設備の定義もこの条に。 法令リード+1
系統用蓄電池だと?
- “発電・送配電側”の用途→ 都市計画法施行令4条の適用除外に乗りやすい。
- “小売”や“特定卸供給”→ 適用除外に入らない整理が一般的(=許可の土俵に戻る)。
最新の国交省通知もこの線で整理しています。 国土交通省
具体例
- 一般送配電事業者の系統用蓄電池(周波数調整・系統混雑緩和等)→適用除外の方向。
- アグリゲーションのスキームが**小売事業(需給一体の小売側サービス)**の延長と評価される→適用除外の外になり得る。
5) 都市計画法施行令 第1条第1項第3号(危険物の貯蔵・処理=第一種特定工作物の典型)
なにを言ってる?
「第一種特定工作物」に該当する“公害系”の具体例を政令で列挙。危険物の貯蔵または処理に供する工作物もここに含まれる代表例です。自治体資料や解説でも同旨の整理。 兵庫県+1
系統用蓄電池だと?
危険物を含有する系統用蓄電池は、第一種特定工作物に該当し得る(=原則、開発許可の審査対象)。この点も国交省の技術的助言で明確化。 国土交通省
具体例
- 容量が大きく、消防・危険物規制の数量基準を超えるBESS → 第一種に当たり得る。
- 逆に、危険物の対象外(or数量基準未満)→ この条項による第一種該当は回避できる可能性。
※ただし、造成規模や他法令(消防/騒音/景観 等)で別の手続が必要なことはあります。
6) 都市計画法 第34条第14号+施行令 第36条第1項第3号ホ(調整区域の“裁量枠”運用)
なにを言ってる?
調整区域でも、条例・審査基準に基づく“例外許可”の仕組みがあります(34条14号+令36条1項3号ホ)。
自治体は「周辺の市街化を促進しない」「市街化区域内では困難」などの観点で審査基準を整備して運用します。 横浜市公式サイト+1
系統用蓄電池だと?
第一種特定工作物に当たる場合、この枠で審査されるのが基本。
自治体ごとに基準の整備状況や運用が異なるので、事前協議が大切です。 横浜市公式サイト
具体例
- 住宅地から一定距離を確保、騒音・景観・安全対策の計画を示し、審査基準に適合→ 許可の可能性。
- 基準が未整備/立地条件が厳しい→ 許可が難しい、もしくは基準整備まで時間を要することも(兵庫県の公表例)。 兵庫県
典型シナリオで理解する
シナリオA:一般送配電事業者の系統用蓄電池
- 用途:系統安定化(周波数調整・出力平滑化 等)
- 法の見立て:施行令4条の適用除外(=開発許可不要の方向)
- ただし:**他法令(消防・騒音・環境・道路・景観)**の手続は別途必要。 国土交通省
シナリオB:小売電気事業や特定卸スキームの蓄電池
- 用途:小売メニューや特定卸の運用に直結
- 法の見立て:適用除外の外→(危険物を含むなら)第一種特定工作物→調整区域は34条14号で審査。 法令リード+1
シナリオC:危険物数量が閾値を超えるBESS
- 規模:大容量で危険物規制量を超過
- 法の見立て:第一種特定工作物→開発許可の審査対象(調整区域は34条14号運用)。 兵庫県
シナリオD:危険物に当たらない・数量未満のBESS
- 規模:小さく、危険物の範囲外/数量未満
- 法の見立て:第一種該当は回避できる余地。とはいえ造成規模や他法令で申請が残ることはあり。
(“許可不要=何もしなくて良い”ではありません)
実務の分かれ道(チェックリスト)
- 用途区分:発電/送配電側? 小売・特定卸?(= 適用除外の可否) 法令リード
- 危険物:種類・数量は規制の対象&閾値超?(= 第一種該当の有無) 兵庫県
- 造成規模:どれだけ土を動かす? 面積は?(= 開発行為の該当性) 兵庫県
- 立地:調整区域? 審査基準(34条14号・令36条1項3号ホ)の有無・内容は? 横浜市公式サイト
- 系統接続:電力会社の接続可否・条件の見込みは?(= 用途の実質判断資料) 国土交通省
よくある誤解とつまずき
- 「電池は置くだけだから許可いらない」 → 造成や危険物でがっつり法令の土俵に乗ります。
- 「電気事業法に関係する=全部適用除外」 → 小売・特定卸は適用除外外の整理が一般的。 法令リード
- 「建築物じゃなければ安心」 → 第一種特定工作物(危険物)に該当すれば結局審査対象。 兵庫県
- 「どの自治体も同じ運用」 → 34条14号は条例・審査基準で差が出ます。要・事前協議。 横浜市公式サイト
まとめ
- 調整区域の系統用蓄電池は、原則:許可が必要になりやすい。
- でも発電・送配電側の用途なら、適用除外で許可不要になる道があります。
- 結局のカギは、用途(電気事業の区分)× 危険物 × 造成規模。
- そして自治体の34条14号の審査基準や系統接続の可否が実務の勝負どころです。 国土交通省+1
ご相談の進め方
- 設置場所・区域区分(調整区域/農振/他法の縛り)
- 用途区分(発電・送配電/小売・特定卸/自家用)
- 危険物の種類・数量(消防・危険物規制との関係)
- 造成規模(面積・切盛土)
- 系統接続(連系容量・系統条件・事前相談の状況)
- 近隣配慮(騒音・景観・交通)
- 自治体の審査基準の有無(34条14号・令36条1項3号ホ)
迷ったところは私たちが一緒にほどきます。事前協議の前に“通る筋道”を紙に落としておくと、自治体・電力会社との話がスムーズです。
参考(行政の公開情報・法令)
- 都市計画法(定義=特定工作物/開発行為等・第4条、第29条)/英文対照版も便利です。 日本法令外国語訳データベース
- 都市計画法施行令(第一種の例示・適用除外の根拠など) e-Gov 法令検索
- 国交省「系統用蓄電池の開発許可制度上の取扱いについて(技術的助言)」2025年4月8日(国都計第7号) 国土交通省
- 電気事業法 第2条(小売・発電・送配電の定義 等) 法令リード
- 34条14号・令36条1項3号ホの運用(自治体の案内例:横浜市) 横浜市公式サイト