こんにちは。千葉県柏市のグリー行政書士事務所の酒井です。
「太陽光や風力で発電した電気をためておきたい」
「再エネ事業で系統用蓄電池を導入したい」
最近、こうしたご相談が急増しています。
再生可能エネルギーの普及とともに、大規模な系統用蓄電池(BESS:Battery Energy Storage System)の設置ニーズはどんどん高まっているからです。
ただ実際に事業を進めようとすると、必ず立ちはだかるのが 「設置場所の規制」 です。
特に千葉や茨城のように農地や自然が多いエリアでは、市街化調整区域に設置したいケースがほとんど。
しかしこの調整区域は「原則として建物や施設を建ててはいけないエリア」。
つまり、法律のルールをきちんと理解しないと、設置ができないのです。
そこでこの記事では、
- 系統用蓄電池は都市計画法でどう扱われるのか
- どんな場合に開発許可が必要で、不要になるのか
- 実務上どんな課題や注意点があるのか
を、行政書士の視点から、条文と具体例を交えながらやさしく整理していきます。
1. 「市街化調整区域」とは?
まず基本から押さえましょう。
市街化調整区域は、都市計画法で定められた「市街化を抑制するエリア」です。
簡単にいうと「新しい建物や施設をむやみに建ててはいけない区域」で、農地や自然環境を守るために指定されています。
原則として、この区域では住宅や工場などの建築は認められません。
ただし 都市計画法34条に「例外リスト」があり、その基準に合う施設だけは建てられる仕組みになっています。
2. でも…「系統用蓄電池」は34条に載っていない
34条の例外リストには、例えばこんなものがあります。
- 農家の住宅
- 農業用倉庫や畜舎
- 学校や病院などの公益施設
- 既存集落内の住宅
ところが… 「系統用蓄電池」という項目は載っていません。
つまり、そのままの形では「許可を取れない」=建てられない、ということになります。
3. 系統用蓄電池は「第一種特定工作物」になり得る
では、蓄電池は都市計画法上どう扱われるのでしょうか。
都市計画法第4条第11項には「特定工作物」という区分があります。
これは「周辺環境に影響を与えるおそれがある施設」や「大規模な工作物」を特別に扱うルールです。
特定工作物の種類
- 第一種特定工作物:公害や環境悪化をもたらすおそれがあるもの
(例:コンクリートプラント、産業廃棄物処理施設、危険物貯蔵施設) - 第二種特定工作物:ゴルフ場など、大規模で土地利用に大きな影響を与えるもの
系統用蓄電池は、危険物を含む可能性があるため、第一種特定工作物に該当することがあります。
ポイント
→ 第一種特定工作物に当たると、調整区域に設置するには開発許可が必要になります。
4. それでも「許可が不要」になる道がある
ここで出てくるのが 都市計画法29条のただし書きです。
29条では「都市計画区域内で開発行為をするには、原則として知事の許可が必要」と定められています。
しかしただし書きで「政令で定める開発行為は除く」とされています。
その具体例が 都市計画法施行令4条に書かれています。
そこには「電気事業法に基づく発電事業者が行う設備」が含まれているのです。
つまり、系統用蓄電池が 「電気事業法の発電事業者の設備」と認められれば、都市計画法の開発許可は不要になります。
これがいわゆる「適用除外」です。
5. 電気事業法の区分で分かれる
では「どの事業なら適用除外に入るのか?」が次の疑問です。
電気事業法では、いくつかの事業区分があります。
適用除外に入る(開発許可不要の方向)
- 発電事業
- 一般送配電事業
- 送電事業
- 配電事業
- 特定送配電事業
適用除外に入らない(開発許可が必要)
- 小売電気事業
- 特定卸供給事業
- 自家用のための蓄電池
👉 つまり、同じ蓄電池でも 「誰が」「どういう目的で」使うか で扱いが真逆になります。
6. 判断のカギは「系統接続」
理屈では「発電事業者ならOK」と言っても、実際にどこで線を引くのかが難しいところ。
実務では、東京電力など電力会社との系統接続の許可が重要な判断材料になります。
系統接続が認められれば「発電事業者の設備」として扱われ、適用除外の方向に進めやすくなります。
逆に、系統接続がない場合は「自家用」や「小売用」と判断され、第一種特定工作物扱いになることが多いです。
7. 実務での課題(ここが一番大変)
ここまでで「法律上の道筋」は分かりました。
でも実際に事業を進めると、さらに多くの課題があります。
① 騒音対策
蓄電池は稼働音(冷却ファンなど)が意外と大きいです。
近隣住民とのトラブル防止のために、防音壁や設置場所の工夫が必要になります。
② 環境・景観
景観条例や環境配慮条例に引っかかることも多いです。
特に自然豊かな地域や観光地では厳しく見られます。
③ 自治体ごとの運用差
34条14号(条例による例外許可)の運用は自治体ごとに異なります。
「基準がまだ整っていないから前例を見ながら判断する」という自治体も少なくありません。
④ 他法令のチェック
都市計画法の開発許可だけでなく、
- 農地法(農地転用)
- 消防法(危険物規制)
- 騒音・振動規制法
- 道路法や景観法
なども同時に関わってきます。
8. よくある誤解
- 「蓄電池は置くだけだから大丈夫」 → 危険物に当たれば第一種特定工作物です。
- 「電気事業に関係してるから全部適用除外」 → 小売や特定卸は適用除外の外です。
- 「建築物じゃなければ安心」 → 工作物でも対象になる場合があります。
- 「全国同じルールでしょ?」 → 自治体によって条例運用はかなり違います。
9. 一言でまとめると
- 系統用蓄電池を調整区域に置く場合、原則は第一種特定工作物=開発許可が必要。
- ただし、電気事業法の発電・送配電事業に該当する場合は適用除外で許可不要。
- 判断のカギは 用途と系統接続の有無。
- 実務では 騒音・環境・自治体条例まで含めて整理する必要がある。
10. 行政書士の役割
こうした案件はまだ法整備が完全ではなく、自治体ごとの解釈に差がある分野です。
だからこそ、事前の整理と対策が不可欠です。
グリー行政書士事務所(千葉県柏市)では、
- 農地転用が必要かどうか
- 開発許可が要るか不要か
- 電気事業法の適用除外に当たるか
- 自治体ごとの審査基準や事前協議
をワンストップで整理し、スムーズに事業が進められるようサポートしています。
「調整区域に蓄電池を置きたいけど、何から手をつけていいか分からない…」
そんなときは、ぜひ一度ご相談ください。
一緒に最適な進め方を考えていきましょう。